マネジメントにおいて自分が任された組織に結果をもたらすためには、メンバーにいかに力を発揮してもらうかが重要である。
メンバーの力を引き出す際によく取り上げられる題材の一つとして「コーチング」がある。
コーチングには色々なテクニックがあるのかと思うが、重要なポイントとしてメンバーと「共感する力」があるのではないだろうか。
メンバーの仕事に関する状況や考えなどを親身になって「聴き」、そしてヒントを与えたり、一緒に解決策を探すなどして成長を促すようにしていく。この聴く行為に必要なのがまさに共感力である。
聴くといっても簡単ではなく、いかに聴いているかを相手に伝わるようにするコミュニケーション能力が必要であり、そこには結構なテクニックが必要である。
そもそもマネジメントを任される人は、通常の業務ができるからこそそのポジションに抜擢されるわけで、端的に言えば通常の業務ができない人の状態や状況がわからない。耳を傾けて共感しようにも「なんでそんなことがわからないの?」というような感じになってしまうことがよくあるのではないかと思う。
それでも色々なケースのコミュニケーションを積んでいくと、「そういうこともあるよね」という割り切りができてくるので、共感できない状態であっても理解によって補完していくことができるようになる。
共感の温度が低い場合であっても、理解をきっかけにコミュニケーションの流れを作り、メンバーが抱える問題に対して提案などをしてステップを踏ませたり、一緒に解決してあげることで個人の能力を高め、結果として組織的な成果につなげていくとなることだろう。
さて鈍感力である。
これは共感とは対義的なものだと言えそうだが、実際には一体的に使っていくものであるように思う。
ちょっとややこしいのであるが、人とのコミュニケーションにおいて、聴いてあげるということだけで全部がうまくいけばいいが実際にはそこまでうまくいくとも限らない。
一つ簡単な例として。
とにかく自分に自信があるメンバーがいるとしよう。仕事もうまくできていると自己評価が高く、周囲やマネジメント側と評価に大きな乖離がある場合がある。このメンバーの主張を「そうなんだ」と聴いてあげると「じゃあ待遇を上げろ」となる。評価の乖離がある以上当然折り合う条件とはならず不満を抱かれる。
もしかするとそのメンバーに対して怒気を感じてしまう人は突き放してしまったりもするかもしれない。真面目で真摯に回答していくことも一つではある。ただ埒が明かないということが往々にしてある。その際、聴かない能力も必要で、もっと言えば、聴いてないということを相手に伝えるコミュニケーションも必要になる。
相手にこの論点で勝負してもダメだと思わせることが必要で、例えば、「なるほど。そういう視点で考えていたんだ。」というような、あたかもそんなところを見ていません。こちらの評価軸は別にあります。ということを仄めかすだけにして、手を明かさず場を終わらせてしまう。
もちろんキャラクターやケースによるが、聴いているんだか聴いていないんだか、鈍感を装うという技術によって相手にあきらめさせたり気づかせたりすることでうまくコントロールできる場合がある。
マネジメントにおけるコミュニケーションでは、「聴く」と「あえて聴かない」というのは実際に必要な場面が往々にしてあるので、頭に入れておきたいものである。