会社の経営や業績が悪化してくると、よく「優秀な人材がいなくなってしまう」と嘆く場面を目にすることがある。また、中小企業ではそこまで待遇面を改善できるゆとりがないことから、管理職から「給与水準を上げないと優秀な人材が他社に採られてしまう」と相談されることもある。
それは果たして本当なのだろうか?
業績の悪化に伴い業務量が減ることで実際人材が離職することはあるだろう。また、その際退職理由として待遇面の改善をあげてくる人もいる。中にはもちろん有能だと思われる人はいるだろうし、実際に引き留めして留意させたり、業務の都合上で退職日を少し伸ばしてもらうこともあると思う。
ただ、その人は嘆くほど本当に優秀か・・?
零細企業は別としてもある程度組織として機能している会社では、少なくとも一人の退職によってその所属する組織が崩壊したこと(バタバタしているとかではなく機能不全の状態)を目撃にしたことはない。
優秀と思われる人が退職して一定期間が経つと次の優秀な人が出てくるだけで、多少の変化はあるが結局組織の文化が変わるほどの影響はなく、そして業績も根底から覆るほど下がることもない。
また、会社全体としての待遇面の改善を訴えることは理解できるが、あたかもそこだけにフォーカスしては、マネジメントが本来やるべき、与えられた資源でやりくりするというミッションから目がそれてしまうことになる。
ついでに言えば、主に待遇面を求めて転職してくる人材が入社後に主要な役職で活躍している姿を見たことがない(これは退職していった人も噂で聞く限り同様である)。特に「入社時に必要以上に給与交渉する人」や「福利厚生をこと細かく聞く(あるいは権利をきっちり全部行使する)人」は確実と言いたくなるくらいである。恐らくこれは「仕事とは何か?」という本質的なことがわかっておらず、働くことにおける優先度の設定や本当に重視すべき点がわかっていないことと相関関係があり、業務にあたっても軽重や優先順位の要旨を捉えられないことから重要な役割を担えないように思ってならない。
話しを戻すが、一定の人数で機能している組織において「一人の力」というのはそこまで大きくなく、全体人数に対してはやはり2:8の法則(目立って活躍する2割の人材とその他一般的な8割の人材)が大体成り立っているように感じる。
優秀層の2の人材のうち一人が欠けても、組織全体でバランスがとられるため、その一人を除いたものを10として、そこからまた2:8が形成される。
また脱線となるが、2:8の法則は、2:6:2とも言えるのかと思う。8のうち2は全体からするとやや劣っている層があって、優秀な2が組織構造上の主たる機能を有しているものとすれば、下位層は一人前より機能していないようなイメージの層である。ただ、マネジメントとして組織運営を行うに当たっては、実は下位層の2も重要で、最近一般的になってきた心理的安全性を構成する要素としてこの層が働きやすいことがある種の組織文化の基準となりそうだからである(これはまた別の記事でも書くかもしれない)。
戻るが、ここで言いたいのは、マネジメントとして経営上や営業上の不安に右往左往せずに、まずは自分の役割を冷静に見極めて組織運営をすべきということ。
もちろん、実際に主要だと思われる退職者があって、その場面を当事者として乗り越えていくのは大変だとは思う。ただ、人材流出は組織としては日常的なことなので、日ごろから重要人物であっても抜けた場合を想定して少なくとも一度は頭の中でシミュレーションしておくことが大切だと思う。
もし穴が空いた場合、組織をどのように組みなおして機能を維持するのか、配置転換、人材採用、マネジメント自ら業務を補うこともシミュレーションすることになるのかもしれない。また、立て直しにかかる期間も見積もっておくことも必要だろう。
さらに、シミュレーションの範囲は自分の組織だけではなく、並列にある組織や一つ上の階層の組織など、会社の組織構成についても俯瞰して考察することで、より色々な場面に対応できるようになるのかと思う。
仕事は永遠同じ状況が続くことはないので、仕事上の立場や役割、組織について日ごろから考えることは必要だろう。そして、自分のキャリアや人生もあわせて考えていけると良いのだろう(なかなかできることではないが)。